懐かしきボ日々

日々の雑感を綴るブログ。今の所、ボードゲームを楽しんでいた日々の回顧。

アークライト訴訟事件を振り返る

 世間一般では盆と墓参りなのだが、コロナウイルスの感染を警戒して、我が家は自宅待機となった。赤子がいる家庭では無理のない話であり、ご先祖様も理解してくれるであろう。
 そして部屋の掃除に明け暮れていた。引っ越してかなりの日々が経過するが、子育て家庭での部屋の片づけは遅々として進まないのだ。
 私が自分の本棚を整理しつつ、並んだボードゲームをぼんやりと眺めていると、子供を寝かしつけた妻がカルピスを持って来てくれた。たまたまアークライト製品が目についたので、とめどなくアークライト訴訟事件について語っていたら、妻は「それってギルバート・オサリバンみたいだね」と言った。

 ギルバート・オサリバン - Wikipedia
アローン・アゲイン』はさすがに聞いたことのある有名曲だ。ヒットを飛ばしつつも、訴訟に巻き込まれ、クリエイター魂が大きく削がれたらしい。私には友人に漫画家がいるが、プロット作成に七転八倒の苦しみがあるらしいのだが、その様を眺めると、確かに訴訟でもされたら筆を折らざるを得ないだろうことは理解できる。

 アークライト訴訟事件は、株式会社アークライトが名誉棄損で池田康隆氏を訴え、1年近く後にアークライト社が500万円の損害賠償請求を取り下げる形で終了したが、当時のボードゲーム愛好家たちはこぞってアークライト社の無様さをあざ笑ったものだった。訴訟に至る経緯は不可解で、訴状も不可解、そしてアークライト社の全面撤退という始末だったからだ。
 しかし10年近く経過した今から事件を振り返ると、必ずしも笑えない。和解の後、私たちは池田氏の新作ボードゲームを期待していたが、彼はその後ボードゲーム業界から離れることとなった。一方でアークライト社は、大型イベントであるゲームマーケットを主宰するなど、ボードゲーム業界の中心的企業へと成長した。
 アークライト社が池田氏を訴えた事件はスラップ訴訟であると当時しきりに騒がれたが、スラップ訴訟とはウィキペディアによれば「言論の封圧や威嚇を目的として行われる」とのことであり、10年近く経過した現在の状況を以て考えれば、しかり十分に恫喝目的であった。池田氏ギルバート・オサリバンのように、一度傷のついたクリエイター魂は簡単には回復せず、長い療養期間が必要だったのであろう。一方でアークライト社はボードゲーム雑誌を刊行し、イベントを興し、特定のクリエイターを祭り上げ、ボードゲーム業界の中での地位を固めていった。
 この結果は我々ボードゲーム愛好家にとっては良かったのであろうか。もしもこの訴訟事件が無ければ、池田氏は精力的に新作ボードゲームを発表していたであろうし、ボードゲーム雑誌を再び創刊していたかもしれない。現在はボードゲームを作ったとしてもゲームマーケットでのお披露目以外の発表方法はほぼ無いが、発表媒体が増えればボードゲーム愛好家が増えるばかりではなく、クリエイターも増えたのではないか。しかしそれはおそらくアークライト社の意図するところではなく、ボードゲーム業界をゲームマーケットを中心とする業界へと小さく作り上げることにアークライト社は奔走し、そしてこの訴訟事件はそれに一役買ったのではないか……もしこの訴訟事件が無ければ、我々はもっと広いボードゲーム業界を見ることになったのではないか……と10年近く経過した今、思うようになった。