私はタルヲシル炎上事件の朗読劇原作となったボードゲーム『キズナと蛍の物語』を見たことはあるが、プレイしたことはなかった。タルヲシル社についてはゲームマーケットへの出店は知っていたが、朗読劇については知らなかった。したがってこのゲームに愛着があるわけではないが、それにしてもこの炎上事件によってボードゲーム業界が悪く言われたことについて、腹立たしい気持ちで一杯となった。
しかしさりとてタルヲシル社は擁護できない。ごく当たり前の感想として、社長の暴言はいただけない。炎上の後始末を、なぜ延々と無報酬のクリエイターに求めていたのかも分からない。和解よりも会社の休業を選ぶという判断も謎だ。
あまりにも多くの突っ込みどころのある事件であるが、以下、当時あまり考察されていなかった論点を列挙し、まとめサイトの補完となることを目的とする。
・タルヲシル社ボードゲーム事業部の年商は思ったほど大きくない
タルヲシル社社長島津氏の手記によると、件のボードゲーム『キズナと蛍の物語』は1000個ほど印刷したようだ。ボードゲームにしては多いとのことだが、同年に制作した商品は他になく、定価4000円程度であることを踏まえると、年商は400万円ほどでしかない。印刷代や販売手数料その他各種経費を除けば、利益は200万円を下回ることであろう。
炎上事件の後始末について同人音楽サークルの作曲家が「得をするのは弁護士だけ」と発言していたが、一定の説得力を持つ。弁護士費用は経費扱いとなるのだろうが、だとしても数十万円の出費は覚悟せねばならず、もし裁判になった場合、200万円の利益の半分以上もしくはほとんど全部が消えてしまうのだ。
・制作された音楽のクオリティは問題にできない
タルヲシル社の関係者や王道エンターテイメント社は、同人音楽サークルが制作したBGMのクオリティをとかく問題視していた。しかしごく当然のこととして、そのクオリティで良しとしたのはタルヲシル社社長であり、クオリティを問題視することは社長の判断を問題視することに等しい。
また、あくまで私見であるが、タルヲシル社は音楽のクオリティを言える立場にはないように思う。
まず、件の朗読劇の主題歌はタルヲシル社が制作したようだ。
「キズナと螢の物語」主題歌 「二人のキズナ」作詞・作曲:創作集団タルヲシル株式会社 歌:Kurumi
次に、同人音楽サークルがBGMとして制作した20曲のうち3曲が以下となる。
無料BGM集003「覚醒」byなりものじあ
主題歌はボーカル付きであるが、ボーカリストは音楽サークル側の人物らしいので、主題歌は背後のオケ部分のみで判断することとなる。音楽の優劣について、音楽にさほど詳しくない私にはやや判断しかねる部分があるが、少なくともこの主題歌を以てして同人音楽サークルのBGMを批判できないであろうことは分かる。
また、主題歌の作曲を自前でできるのに(音楽スタッフが存在していた?)、なぜBGMを外注したのかもわからない。
・社長と同人音楽サークルとは不仲だったのではないか
社長は朗読劇開演に際し、スタッフに謝辞を述べている。役者には個々に長文にて労っているが、ここに同人音楽サークル関係者の名前は無い。同人音楽サークルは20曲を無料で制作したようだが、一言たりと謝辞が無いのはあまりにも不自然すぎる。
・A氏のスタッフとしての立ち位置
王道エンターテイメント社によれば、報酬を持ち逃げしたとされるA氏は舞台の監督を務めていたとのことである。クラウドファンディングでは「総監督」、パンフレットでは「総監督/演出」と記載される人物がそれに相当するのであろう。
A氏について、同人音楽サークルは「スタッフを降板」と言い、タルヲシル社は「降板していない」との声明文を出した。しかし上で引用した社長の謝辞には、A氏への謝辞もない。それどころか監督の存在を匂わせるような一文も存在しない。普通であればA氏は降板していないのだから「監督がんばってくれた金山大樹くん、舞台は成功しましたよ」などと挨拶をすべきであろう。舞台において音楽は無視できても、監督や演出の存在は無視できるはずがない。
したがって、「A氏は降板させられた」という同人音楽サークルの説明は一定の説得力を持つ。
・DVD発売は約束されたものではなかった
件の朗読劇はクラウドファンディングの出資により運営されていた。このクラウドファンディングにはストレッチゴールが設定されており、30万円達成で追加公演、40万円達成で公演DVD制作となっている。しかし集まった金額は304,500円となっており、本来ならばDVDの発売は出来ない。どのような経緯でDVD発売となったのかは、会社のホームページ、社長のTwitterアカウントが消えた現在となっては分からないが、この点について誰も言及していないところから考えるに、何らの説明はなかったものと思われる。
・その他雑所感
クラウドファンディングで集まった舞台予算のうち、20万円は内訳が発表されている。しかし残された予算の10万円で、なぜコスプレ衣装を製作しているのか理解に苦しむ。少しでも音楽制作費に回せば、炎上は防げたのではないか。
タルヲシル社はボードゲーム新規企画やボードゲーム喫茶開店について、常にクラウドファンディングを組んでいる。しかし何ら声明を発することなく事業を停止している。支援者に対し最低限の挨拶くらいはすべきではなかったのか。またボードゲーム喫茶については、年間パスポートを購入していた客もいたはずだ。その補填についてのアナウンスもなかったようだ。
原作ボードゲームは漫画化したのだが、正直なところ絵が微妙だ。それどころか、この漫画が連載しているWEB雑誌についての5ちゃんねるスレッドにおいても、炎上について全く話題になっておらず、人気のなさが伺える。
通常、炎上はさほど長く続かないものだが、この事件は1か月以上もTwitterや5ちゃんねるで話題となった。それには燃料の継続的投下が不可欠であるが、王道エンターテイメント社や、その他タルヲシル社の関係者が随時話題を提供したため、延々と燃え続けることとなった。もし島津社長の暴言が告発されたのち、すぐにタルヲシル社が謝罪し、その後関係者が何も発言しなければ、ほんの数日で鎮火したことであろう。もしかして関係会社・関係者はタルヲシル社に対して恨みがあったのではないか、と勘繰ってしまう。